どのくらい足音が響くかの指標・L値について

どのくらい足音が響くかの指標・L値について

マンションのひとつ上の階に住んでいる住人の生活音、子どもの駆け回る足音、ネコの運動会、何か硬いものが落ちる音、家具の脚が床とこすれて起きる音……たとえよくあることとわかっていても、たまにはドキッとしてしまいます。なかなか慣れないものなのです。
やはり精神衛生上よろしくはないです。上の階から受けたくない迷惑ですし、下の階におよぼしたくない迷惑です。
 
この上下方向の騒音に対する、床の防音性能は「L値」と呼ばれる数値であらわします。
なぜDr値を使わないのか不思議に思われるかもしれません。
が、Dr値は「空気→壁→空気」という振動の伝播について、遮蔽物による減衰をみる値であるのに対し、ここで考える「上下方向の騒音」は、
床に何らかの物体が直接ぶつかって、そこで生じた振動が固体である天井や壁を通して伝わり、
音を響かせるということで、音の伝わるパターンが違っているのです。
そのため、また別の指標が必要になります。
 
「上下方向の騒音」は、建築業界のテクニカルタームでは「床衝撃音」といいます。
硬い言葉ですが、決まった言い方ですし、シンプルですから、以下、これでいきます。
 床衝撃音は、発生の仕方、衝撃の特性のちがいから、2つに分類されます。
①重量床衝撃音(LH)
 「ドスン」、「ドタドタ」のような、子どもがソファから飛び降りたり、走り回ったりすることで生じる床衝撃音です。周波数が低めの音になります。
②軽量床衝撃音(LL)
 食器やおもちゃなど比較的硬質で軽量な物が床に落下した時や、椅子を持ち上げて下ろした時、ひきずった時などに生じる床衝撃音です。
 周波数高めの軽い音です。
 
これら2種類の音を、実験室で実際に発生させて階下で伝播音を測定し、床衝撃音に対する防音性能の指標、L値を定めます。
重量床衝撃音は「バングマシン」と呼ばれる、1メートルほどのアームの先につけた普通自動車用のタイヤを床に落とすことで発生させます。
軽量床衝撃音は、「タップマシン」という5つほどの小さな円筒状のステンレスを小さいストロークで連続的に床にぶつけ、発生させます。
そして、階下で聞こえる音の音圧レベル(dB)を測ります。
Dr値のときと同様、床衝撃音は周波数が高いほど大きく減衰し、低いほど減衰が小さくなります。
そのため、全体的に周波数が低めになっている床衝撃音では、63ヘルツ、125ヘルツ、250ヘルツ、500ヘルツ、1000ヘルツ、2000ヘルツの6帯域を用いて
評価します。
L値は、L-30からL-85までのランクで基準が定められています。数字は、Dr値のときと同様に500ヘルツ帯域の床衝撃音のデシベル数です。
上記6つの周波数帯域すべてで、測定された床衝撃音のデシベル数が基準を下回ったランクのうち、最小デシベル数のものがL値として認定されます。
「L-30」とか「L-45」とかに出てくる数字は「聞こえてくる床衝撃音の音圧レベル」で、数字が小さいほど聞こえてくる音が小さい、
つまり床衝撃音に対する防音性能が良いという意味ですから、少し注意が必要です。大きいほど優秀なDr値とは反対に、小さいほど良いのです。
 
 それでは、L値と階下に住んでいる人にとっての実感の対応について、目安の一例を見てみましょう。
 
遮音等級 重量床衝撃音:人が走り回る、飛び跳ねる 軽量床衝撃音:椅子の移動音、物の落下音
L-80 うるさくてがまんできない うるさくてがまんできない
L-75 かなりうるさい たいへんうるさい
L-70 うるさい かなりうるさい
L-65 発生音がかなり気になる うるさい
L-60 よく聞こえる 発生音がかなり気になる
L-55 聞こえる 発生音が気になる
L-50 小さく聞こえる 聞こえる
L-45 聞こえるが意識することはあまりない 小さく聞こえる
L-40 かすかに聞こえるが遠くから聞こえる感じ ほとんど聞こえない
L-35 ほとんど聞こえない 通常ではほぼ聞こえない
L-30 通常ではほぼ聞こえない 聞こえない
 
 床衝撃音は、「上の階から受けたくない迷惑、下の階におよぼしたくない迷惑」と書きましたが、L値が高い集合住宅に住んでいるということは、
上の階から受けているのと同じくらいの迷惑を、自分もまた下の階の住人におよぼしている可能性が高いわけで、たいへんおそろしいことです。
 ということで、日本建築学会が定めている、集合住宅に対するL値の適用等級をご紹介しましょう。
 
特級(学会特別仕様):LH = L-45  LL = L-40
 「遮音性能上特に優れている」、「特別に遮音性能が要求される使用状態の場合に適用する」とされます。
1級(学会推奨標準):LH = L-50  LL = L-45
 「遮音性能上望ましい」、「通常の使用状態で使用者からの苦情がほとんど出ず、遮音性能上の支障が生じない」とされます。
2級(学会許容基準):LH = L-55  LL = L-55
 「遮音性能上ほぼ満足」、「遮音性能上の支障が生じることもあるが、ほぼ満足しうる」とされます。
3級(学会基準外仕様):LH = L-60, 65  LL = L-60
 「遮音性能上最低限度」、「使用者からの苦情が出る確率が高いが、社会的・経済的制約などで許容される場合がある」とされます。
 
防音室

防音工事
 

新着ページ